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内向的な人はアート系の仕事に就けという嘘
コミュニケーションスキルの低い人、アスルペルガーなど発達障害の人、メンタルが弱い人、内向的、内気な人は、芸術、アート系の仕事に就いた方がいいという意見をネットや本などでよく見かける。アートといっても音楽ではなく、美術の方だ。
アートの仕事は一人で黙々と行う印象があるからだろうが、果して本当にそうだろうか。
あえてタイトルでは過激に「嘘」と言ってみた。
趣味として物を作ったり絵を描いたりするので、芸術関係の人と知り合うことも多い。
確かに創作している間は、大抵一人で黙々と制作をしていると思う。
ただ、絵を描くだけ、物を作るだけでは生活はできないので、作った作品を売るという行為をしなくてはならない。
どんなに才能があっても、何もしなくて作品が売れる人は多分そうそういない。
売る為には、ショップに飾らせてもらったり、ポートフォリオを出版社やギャラリーに持ち込んだり、個展をやろうとすれば、ギャラリーとの折衝、見に来てくれた人への対応と、様々なことをしなくてはならない。
著名な作家ならギャラリーに置いておくだけで売れるのかもしれないが、名もない作家の作品なら、作品の良し悪しだけでなく、作家の人となりで売っていくことが多いと思う。
そこで必要なのは、セルフプロデュースだ。
ただの主観だが、無名の作家の作品を好んで買う人は、作家との交流を楽しでいるように思う。作品が生み出された背景やストーリーを作家から聞くのが好きなんじゃないかと思う。作家は、作品が持つテーマとか、作るプロセスとか、そういうことを自分の言葉できちんと語れるスキルが必要なんじゃないだろうか。
少なくとも見に来てくれた人を不快にさせない対応が求められる。今はSNSがあるから、以前よりは作品をアピールしやすいとは思うけれど。
周りを見ても、アーティストを生業としていける人は才能と運に恵まれた一握りの人だけで、ものすごく才能があっても、生計を立てるためにバイトをしながら制作活動をしたり、講師をやったりしている。
芸術は、人が生きるために必須ではない為、…異論もあると思うが、存在しなくても生存できるという意味で…、アートの仕事は貧困と結び付きやすい。そして貧困は生きづらさに密接に関わっている。
生きづらさという気質を既に抱えている者が、更に貧困という生きづらさを抱えることは、どうなのだろうか。
家やパートナーが豊かで経済的に恵まれているというのでなければ、内向的な人が仕事として芸術の分野を志すのは疑問符がつく。
絵画、彫刻、現代アートなど芸術よりであるほど、それで生計を立てるのは難しく、比較的生活が成り立つのはデザイン系の仕事だと思う。
デザイン系が自活しやすいのは、会社や組織に属することが比較的楽だからだ。ただ組織に属するということは、自分の好きなものを黙々と作っていればいいということにはならない。自己満足ではなくユーザーの意図を汲み取って、満足してもらうデザインを提供する仕事になる。そういう意味ではコミュニケーションビジネスともいえる。
内向的な人やコミュニケーションスキルの低い人には難しい仕事なのではないだろうか。
そう考えると、内向的な人がアート系の仕事に向いているという主張には嘘があるように思う。
ただ矛盾するようだが、私も、物を作る人間の末端にいるものとして、高いコミュニケーションスキルが必要だったり、ワーキングプアの道に陥りやすくても、そういう事情を汲み取っても尚、作りたいという渇望を抑えることができるのだろうかと考えたりもする。
本当に物を作ることが好きならば、コミュニケーションスキルの低さは乗り越えられるかもしれない。
自分の中のピュアな部分は、アートを仕事にすることへの夢や希望を捨て切れないでいる。
少なくとも、アートの仕事を志す人にやめた方がいいと言える、明確な根拠は持っていない。
このことに対する答えは、まだ出ていない。