1. ホーム
  2. 心の病気とメンタルヘルス
  3. 躁うつ病(双極性障害)だった叔父の死

躁うつ病(双極性障害)だった叔父の死

躁うつ病(双極性障害)だった叔父の死

大好きな義理の叔父がいた。
母の妹の旦那さんになった人だ。
二人が恋人同士の頃に叔母から紹介されて、小学生だった私は、たちまち気さくでユーモアあふれる叔父のとりこになった。
叔母とこの叔父には、可愛いがられた記憶しかない。

絵を描くのが抜群に上手くて、動物やマンガのキャラクターを何度描いてもらったかわからない。

夏休みに祖母の家に来ていた私は、まだ一人で暮らしていた叔父に会うために片道三時間も掛けて、叔父の家まで
歩いていったこともあった。
車で行けばあっという間の距離も、歩けばこんなにかかるということを身を持って知った出来事だった。
豆のできた足が痛かったが、途中引き返そうともとも思わずに、会いたさ一心で歩き続けた。
引き止められることがわかっていたので、祖母や叔母に何も言わずに出かけた。祖母たちは私がどこかへ行ったと思い、かなり心配したようだった。

私はといえば、そんな心配はどこ吹く風で、叔父と遊べたことが嬉しくて仕方なかった。

そんなに大好きな叔父だったが、県外に住んでいたこともあり、会えるのはお盆とお正月、せいぜい五月の連休だけだった。

小学校高学年の頃だったと思う。突然、叔父が一人で訪ねてきたことがあった。何度か家に来たことはあったが、そういうときは事前に連絡を入れ、叔母と連れ立ってくるのが普通だったから、少し不思議な気がした。

両親共働きの一人っ子だったので、母の帰りを待ちながら、叔父と話をするのだが、様子がどこか普段と違っている。
叔父は、持ってきた雑貨を私に買わないかと持ち掛けてきたのだ。いつもなら「お土産だよ」と渡してくれて、買ってほしいなどということはなかったので、何だか意地悪をされているような気がした。その雑貨に興味がなかったので「いらない」と断るのだが、しばらくすると、また同じ話を蒸し返してくる。

帰宅した両親には、いい家具が安く手に入る仕入先を知っているからと、家具を薦め始めた。普段から口数の多い面白い人だったが、いつにもまして饒舌で、上機嫌だった。エネルギーが放出しすぎていて、ちょっと怖い感じもした。結局父は、叔父の口利きで、新しい家具を買った。

後から思うと、叔父はお金が欲しかったのだと思う。

二、三日滞在して叔父は別の知り合いのところへ行った。

両親が話しているのが、漏れ聞こえてきた。
「躁うつ病だ」

事情を知っていたであろう両親は私に詳しい説明をしなかった。病気らしいということだけが理解できた。聞いてはいけないような雰囲気が漂っていた。

叔父は叔母がとめるのも聞かず、ウチだけではなく、他の親戚や知り合いの家を訪ね歩いて、同じように何かを売って、お金を得ていたらしい。

ほどなくして叔母は叔父と別れた。
離婚の原因が、精神疾患だったかどうかはわからない。

もう会えないことを知り、ただただ悲しく涙があふれた。

けれど自分の事でいっぱいいっぱいだった私は、段々と叔父のことを忘れていった。

中学の入学が近づいた頃、ピンクのボールペンのセットが届いた。
叔父からの入学祝だった。関係のなくなった私の入学式を気に掛けてくれたことが嬉しかった。

電話を掛けることは許されなかったので、お礼状を書いた。
返事は届かず、それが叔父との最後のやりとりになった。

それからしばらくして、叔父が自殺したことを聞かされた。

二度目の別れだった。
叔母と離婚したときには、今は会えなくてもまたいつか会えるのではという希望があった。
けれど、もう本当に会うことはできなくなってしまった。

双極性障害(かつての躁うつ病)は、精神障害の中で最も自殺企図が多い疾患のようだ。
躁の症状がひどい時には、本人に自覚がないまま周囲に迷惑をかけることで、社会的・人間関係面での破綻が生じやすい病気でもあるという。

叔父と病気の関係は、今となってはわからない。
適切な治療は受けていたのだろうか、自殺を防ぐ手段はなかったのだろうかと考える。
答えは出ない。

悲しくて使えなかったボールペンのセットは、今も使われることなく引出の奥にしまわれている。


(双極性障害の人が全てこのような感じではありません。ひとつの事例としてお読み下さい。)




「生きづらい。それでも生きていく」 サイトについて

人と関わることががうまくできません。メンタルが弱くて、打たれ弱くてすぐにへこんだり、体力がなくて人と同じようにできなかったり、他の人が楽しいと感じることが苦痛だったり…生きづらさを抱えながら毎日を過ごしています。普通の人と同じようには生きられないけれど、それでもどうにか、生きています。そんな日常を綴っていきます。


「みんなの生きづらさ」募集について

あなたの「生きづらさ」は何ですか。
ご自身が感じる日頃感じる「生きづらさ」を投稿して戴ける方を募集しています。
働きたくても働けない。仕事が続かない。非正規雇用の働き方から抜け出したい。働いてもワーキングプアから抜け出せない。コミュ症で周囲とうまくコミュニーションが取れない。対人関係に悩んでいる。友人関係がうまくいかない。自分を好きになれない。容姿に自信がない。…等、なんでも結構です。
溜まった辛さを吐き出して、少し身軽になってみませんか。
「みんなの生きづらさ」募集についての詳細はコチラ


リンクについて

リンクについての詳細はコチラ



過去記事



よく読まれている記事