エネルギーがスカスカなまま、人を助けねばならないと思い込むとき
<2018.9.16>
何かを調べていて、ヒットした個人ブログがあった。面白そうだったのでいくつか記事を読んでみた。その中に気になる記事があった。
ブログ主さんは、生まれたばかりの娘さんを持つお父さんで、 「娘は、人を助けられる人間、人の為に働ける人間、人の役に立つ人間に育てたい」ということを切々と綴っていた。娘さんへの愛情を感じたし、また、まだ生まれたばかりの赤ちゃんの理想の姿が綴られていることがちょっと怖くもあった。
人を助けること、それ自体は崇高で素晴らしいことだ。
だけど、生きづらさに悩む人の中に、人の為に何かすることが、自分のことより上にくる人たちがいる。自分のニーズより他人のニーズを優先させて、身を粉にして困っている人を助け、結果自分が削り取られて苦しむ人たち。
それは、本当に人を助けたいからではなくて、人を助けて人から必要とされる人間になることで、自分の存在価値を証明したいからなんだと思う。人を助けること自体が好きな人、つまり助けること自体に喜びを見出す人とは、多分根本的に違う。動機が、「人を助けたい」からなのか、「人から必要とされる人間になることで、自分の不安を払拭して、価値ある人間として認められたいか」ということは、結構隔たりがある。
もちろん、人の役に立つことで自己肯定感を持つことは悪いことではないだろう。助けるべき存在がいることで、強くなったり覚悟ができたり、そういうこともある。
問題に思えるのは、自分自身が少しも満たされず、エネルギーがスカスカな状態なのに、人に手を差し伸べて、どんどん疲弊していくような場合だ。
他者の為に役に立たなければ、自分は生きていてはいけないと強く思い込んでいるようなとき、それはとても苦しいことだと思う。一時、人を助けて満足しても、根本的な自己信頼が欠けていたら、多分、すぐに足りなくなる。自分は価値ある人間だってことを常に誰かに証明し続けなくてはいけないから、たえず、助けてあげられる人を求める。自分のために困っている人を必要する関係は、どこかいびつだ。そうやってしか生きられない姿は痛ましい。そして、エネルギー切れのまま人を救おうとするとき、下手をすると、共依存の関係に陥ったり、自己犠牲がすぎて、相手を受け止めきれずに関係が壊れることもある。
助けようとすることで自分が消耗するだけなら、人を助ける必要はない。自分自身を満たすことを最優先で考えればいい。更に言えば、自分の価値を証明する必要なんかなくて、この世に生を受けていること自体が存在していいという証しでもある。エネルギーが満ちてくれば、余裕もできて、自然に他者に優しくなれたりもする。
自動思考というのは、何かものごとが起こったときに、パッと衝動的に浮かんでくる思考のことだ。思考の癖ともいったもので、生まれ持った性質や周囲の考え方の影響、これまで体験してきた様々な事柄、そういったものを通して、私たちは世界を捉えている。
自分の自動思考に気づくことができれば、それが歪んでいることにも気づけるが、あまりに慣れ親しんでいるために、それが妥当性を欠いていることに気づけない。「誰かの役に立たなければ、自分は生きていてはいけない」というのも、一つの自動思考で、しかも自分を追いつめる方へ偏っている。
この自動思考に影響を与えるものとして親の存在がある。もちろんそれが全てではないし、もちろん自分で選び取っていくことも可能だ。けれど、この最初に教わった偏った認知のせいで、長く苦しむ人がいることもまた事実だと思う。
最初のブログ主のお父さんに愛情がないとは思わない。優しい娘さんに育てたいことも伝わってくる。文章で読んでいるだけだから、考えすぎなのかもしれない。ただ、「誰かの役に立たなければならない」と頑なに思い詰めて苦しんでいる人が多くいることを知っているので、つい危ぶんでしまう。
そして、こう願わずにはいられない。
どうぞ、ブログ主のお父さん、お嬢さんに、人を助ける前に、自分自身を満たしていいと教えてあげてください。そして、何の条件をつけなくても、ただ存在するだけで、愛しているということを。