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派遣労働の暗部を暴く『中高年ブラック派遣 人材派遣業界の闇』
「労働者をモノ扱いする政府・厚生労働省の欺瞞を暴く」という帯に興味を持ち、『中高年ブラック派遣 人材派遣業界の闇』(講談社現代新書・中沢 彰吾著)を読んだ。
1956年生まれの筆者が、実際に人材派遣会社に登録・就労した体験と取材をベースに、若者の問題として捉えられがちな人材派遣の問題を中高年という視点から描いた作品だ。
「明るく楽しい職場」と言われ派遣された「化粧品の検品」の仕事は、タコ部屋のようなところに押し込められ延々とカレンダーの組み立てをする仕事。ストップウォッチを持った監督に厳しいノルマで急き立てられ、「いい年して、どうして人並のことができないんだ!?」と恫喝される。
「お菓子工場での製造補助。パティシエにお菓子作りを教えてもらいましょう」と派遣された中年女性は、消毒液の塩素ガスが立ち込める密室で、冷たい流水に両手を浸してのイチゴのへたとり作業。
虚偽の労働内容の説明、低賃金、労働者のスキル・人間性・人権をも無視した奴隷に近い労働形態、…中高年の派遣労働の過酷でブラックな状況が描かれる。
全ての派遣労働者がこのような過酷な現場で働かされているわけではないと信じたいが、読んでいて暗澹たる気分になる。
今や2000万人を越える非正規労働者における40歳以上の中高年の割合は、6割を占めるほどになっており、誰しも決して対岸の火事ではない状況が迫っている。
実際私自身も派遣ではないが非正規労働者という危うい立場で働いている。
1985年に労働者派遣法が成立し、中間搾取が行われやすい労働形態としてそれまで禁止されていた労働者派遣業が、専門性が要求される13の業務に限定する形(ポジティブリスト方式)で解禁する。
そのときにも、
労働者派遣がいったん制度化されれば人件費を削減したい企業経営者の欲望を刺激し、常勤の正社員が短期の労働派遣になだれをうって置き換えられ、労働者の貧困化が急激に進むのではないか
と危惧するの声があがるが、1999年にポジティブリストからネガティブリスト方式へ改正され、更に2004年に製造業務への派遣が解禁されると、その危惧は現実のものとなる。
貧困、ワーキングプア問題の全ての原因が派遣労働に求められるものではないが、
人材派遣の拡大は正規社員の居場所を減らす。正規社員の地位を失った労働者も人材派遣に頼らざるを得ず、人材派遣が規制緩和される以前であれば普通の生活を営めたはずの多くの労働者が貧困化し、砂が水中で沈殿するように日本社会の底辺にかたまっていく。
という現実があることも事実である。
果たして企業が賃金抑制によるコスト削減を図ることは、長い目で見て企業の利益に適うのだろうか。
安定した雇用関係がなく、低賃金、劣悪な環境下で、人が意欲的に働けるとは到底思えない。
経歴が一つも顧みられず、ただ雇用の調整弁として歯車のように働くことを一体どれだけの人が望んでいるんだろう。
何より恐ろしいと感じたのは、筆者がノロウィルスの感染のおそれがあると申告しているのにも関わらず、人材派遣会社が休むことを許さず頭数合わせの為に、ケーキ工場へ行かせようとする実態だ。
ノロウィルスに感染したかもしれない労働者がケーキ工場に行けば、どういう結果が待っているかの想像すらできないような人間が、人を管理していることにうすら寒さを覚えるのだ。
派遣労働者による個人情報の流出など、本来派遣労働者が担うべき仕事ではない責任ある仕事までアウトソーシング化されていくことにも疑問を感じる。
派遣労働者として働きたい需要もあると思うし、一概に否定するものではないが、中高年にとどまらず、派遣労働についての実態の解明と議論は必要に思う。
中高年ブラック派遣 人材派遣業界の闇