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河合隼雄の『ファンタジーを読む』
メンタルヘルスクリニックに通う前、生きづらくて辛かった頃、よく読んだのが心理学者・心理療法家の河合隼雄さんの著作だった。
もう亡くなってしまったが、日本にユング派心理療法を確立した人で、京都大学名誉教授、文化庁長官でもあった。大層な肩書を持つ人だが、著作は分かりやすく優しい語り口で書かれている。
初めて読んだのは『ファンタジーを読む』だった。それまで、児童文学やファンタジー作品は子供向けの読み物として、気にもとめたことはなかったが、河合さんはファンタジーを心理学という視点から鮮やかに読み解いてみせてくれた。『ゲド戦記』や『床下の小人たち』等、有名な物語もあるが、あまり日本では馴染みのない話も多い。
『ファンタジーを読む』より先に上梓された『子どもの本を読む』の文庫版まえがき中で、「たましい」ということを語るのに、非常に適した素材を、子供の本が提供してくれるからと、語っている。ちなみに『子どもの本を読む』の中には、ジブリで有名になった『思い出のマーニー』も取り上げられている。
それからむさぼるように河合さんの本を読んだ。河合さんの世界にいるとき私は幸せだった。けれど、一人の閉じた世界から離れ、他者と関わるとき、外の世界に接するとき、河合さんの物語があっても私は幸せではなかった。人と接するのに緊張がありすぎて、河合さんの物語はどこかに飛んで行ってしまうからだ。
それで薬に頼るようになり、対人不安や対人恐怖は大分緩和されたと思う。一時的にはそれでよかったが、やはり薬では根本的なところでは救われないように思うようになった。
河合さんは箱庭療法を日本へ初めて導入した人でもある。
箱庭療法とは、カウンセラーが見守る中、クライアントが、砂の入った箱の中にミニチュアを置き、それを自由に展開することで、また砂自体を使って何かを表現したり、遊ぶことを通して行う心理療法のことだ。
私が河合さんを知った頃には、もう個別のカウンセリングは行っていなかったが、同じ時代に生きた人間として、一度でいいから河合さんの箱庭療法を受けてみたかったと思う。私の作った箱庭をどう読み解いてみせてくれたのだろう。にこにこ笑って「それはいいですね」というだけかもしれない。優しいだけではなく、ユーモアに溢れた人だったと聞く。河合さんの見守る中でなら、安心して無心に箱庭の世界で遊ぶことができたと思う。
そこには、癒しの作用と「たましい」の触れ合いがあると思えるのだが、お会いする機会はもうない。せめて著作をこれからも読もうと思う。
ファンタジーを読む (講談社プラスアルファ文庫)