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精神科医の秋田巌先生による『うつの人の風呂の入り方』
<2018.6.22>
精神科医の秋田巌先生による『うつの人の風呂の入り方』(晃洋書房)を読んだ。
「精神科医からの「自分で治すための」46提案」というサブタイトルがついている。
タイトルは『うつの人の風呂の入り方』だけど、お風呂の入り方だけではなく、朝の乗り切り方、職場での心の持ち方、運動の仕方、食事の摂り方といったように、生活のシーン毎に、うつの人がどのように過ごせばいいかが、わかりやすい文章で書かれている。
その中で気になったのは、「考えても仕方のないこと」と「考えなければいけないこと」をはっきり切り分けるクセをつけることが大切ということだ。
うつ病の患者さんは、「考えても仕方のないこと」と「考えなければいけないこと」がひどくごちゃ混ぜになっていて、「周囲からどう思われているだろう」とか「私のことを見下しているのではないだろうか」と「考えても仕方のないこと」を考えて、自分を追い詰めていくようなことをするのだと、秋田先生は言う。
私もメンタルヘルスクリニックに通っていた頃、他人からどう見られているかということはひどく気になることだった。誰からも好かれようとして、少なくとも嫌われまいとして、素の自分はなるべく出さないようにしていた。.自分の行動がセーフなのかアウトなのかということを、相手から必死になって読み取ろうとして、へとへとになって疲れ切った。
生きる軸が自分にあることを自分軸、軸が他人にあることを他人軸と言ったりするが、まさしく他人軸の状態で、この時期が一番苦しい時期だったと思う。
自分が他者の目にどう映るかということや、他者から好かれるかどうか、そういう他人の気持ちに関することはコントロールできないと気づいたのは、ずっと後になってからだ。
「考えても仕方のないこと」を考えるのをやめて、「目の前のことにのみ集中する」ことが大事なのだそうだ。秋田先生は、これを「目の前のことに集中作戦」と名付けていて、洗顔なら洗顔に集中、朝ごはんを食べるときは食べることに集中、次は着替えに集中といったように、今している行動一つ一つに集中していく。全プロセスをイメージすると辛くなるので、そのことだけに徹する。
「目の前のことにのみ集中する」ということは、マインドフルネスの「いま、ここ」という考えにも通じるものだ。
ごちゃごちゃ考えずに目の前のことに集中するという「技法」は、うつ病治療の核心です。これができれるようになれば、もうすでに半分は治ったと言えるでしょう。うつ病といってもいろいろな型がありますので、一概には言えませんが、これだけでほぼ寛解(完全によくなること)に至る人もめずらしくありません。
『うつの人の風呂の入り方』秋田巌 (著) 晃洋書房から引用
うつ病の人に限らず、生きづらさに悩むような人は、つい「考えても仕方ないこと」を考えて、エネルギーを消耗していると思う。人間関係だけでなく、自分の性格や容姿、今置かれている状況、終わってしまった過去のこと、将来の不安など、「考えても仕方ないこと」はきりがない。もちろん対処できることに備えることは大事だけど、それ以上は、私たちが関知できない領域に属することだ。
私はずいぶん回り道をしてしまったが、もう少し早くにこういうことを知っていたら、「考えても仕方のないこと」からもっと早くに解放されていたのではなかっただろうか。
風呂/シャワーにしろ、歯磨きにしろ、爪の切り方にしろ、すべてにおいてうつ状態の期間中は六十点主義で乗り切ってください。いや、感覚的には四十点くらいでもいいかもしれません。合格点に達していなくても「まっ、いいか」と思うように心がけてください。四十点を心がけるというのも変な言い方ですが、うつの人は真面目ですから自分では四十点と思っていても、傍から見ると十分に六十点、七十点くらいに見えることも多いのです。(中略)
「六十点の自分」「四十点の自分」を許容することができるようになれば、ずいぶん生きやすくなります。『うつの人の風呂の入り方』秋田巌 (著) 晃洋書房から引用
ただ秋田先生も書いておられるが、希死念慮、つまり自殺を考えてしまうような状態にある人は、自分で何とかしようとせずに、心療内科や精神科など、専門家に頼ることを考えてほしい。
本当に辛いときは、息をするだけで精いっぱいだと思う。でも、その状態をなんとかしのぐことができたら、状況が変わる瞬間がきっと来る。
転機は必ず訪れます。フッと体と心がラクになる瞬間があります。その機を逃さず、普段できていないもう一歩踏み出すのです。音楽を聴くとか、外出してほんの少しだけ散歩をするとか。何でも結構です。DVD を観たりするのもいいでしょう。新たな刺激が脳に加わることで、流れが変わってくることがあります。
『うつの人の風呂の入り方』秋田巌 (著) 晃洋書房から引用
そんな小さなことで思うかもしれないが、小さな変化が積み重なって大きな変化に繋がることも多い。
優しい秋田先生の人柄が伝わってくるような一冊だ。うつの人に限らず、生きているのが辛いという人にオススメしたい。