鬱病…子供を残して逝った人
以前に青木ヶ原樹海で、自ら死を選んだ人について書いたが、もう一人、学生のときの後輩で、子供を残して自殺した人について書こうと思う。
その人は、学生時代のサークルの1つ下の後輩だった。仲間内でわいわいやるだけの付き合いで、彼の人柄をよく知っているわけではない。だから、憶測が混じるのをお許しいただきたい。
亡くなったのは彼が30歳を過ぎてからだが、卒業してから会ったのは2回位なので、大人になった頃の印象はなくて、思い出す彼は若いときの彼だ。ごつい体格とは裏腹に繊細で優しい人という印象がある。
卒業後まもなく彼は遠くに引っ越し、辛うじて年賀状のやり取りだけが続いた。可愛い子供と奥さんの写真が印刷された年賀状が届くようになり、やがて子供が1人から2人になり、2人から3人に増えていった。子供を自慢するコメントが微笑ましかった。結婚して幸せに暮らしているのだとばかり思っていた。
そうしたある日、彼の訃報が届いた。
人づてに聞いた話だと、鬱病を患っていたと聞いた。発作的に起こした自殺だったということも。マンションからの飛び降り自殺だった。
鬱病は治りかけが一番危ないと聞く。それまで何をする元気もなかったのが、少しずつ回復して、抑うつ感や不安感は残っているのに、行動を起こすエネルギーは回復するので、何かがきっかけとなって、発作的に自殺をしてしまうことがあるそうだ。
もう少しだったのに。そこを乗り切れば、もっともっと生きられたのに。
青木ヶ原樹海で亡くなった彼は、熟考に熟考を重ねた上での決行だったろう。頑固な彼は、やすやすと決断を覆すことはなかっただろう。
でも、後輩の彼は、自殺というより事故に近い。その日さえ、その時期さえやり過ごしてしまえば、と考えずにはいられない。
残された3人の子供と奥さんはどうするの?
天国にまだ逝けないことは、あなたが一番よくわかっていたんじゃない?
人懐っこい彼の笑顔が目に浮かぶ。卒業後にサークルのみんなで行ったハイキング、まだ独身だった彼は、先輩の家の子供を一生懸命楽しそうにあやしていた。
あれからもう何年も経つが、楽しそうに笑っていた彼の笑顔がもう永遠に失われたなんて、いまだに信じられない自分がいる。