常に怒っている人-2
「常に怒っている人」として、以前の勤めていた職場の営業所長の奥さんのことを書いたが、女性ではなく男性で、いつも怒っている人について書こうと思う。
その人は、前に勤めていた会社(営業所長の奥さんがいる会社とは別な会社)が入っていたビルの別フロアに入っていた会社の社長さんだった。
うちの会社とそこの会社は別会社だったが、業界が近いこともあって、取引もあり、時には昼休みにそこの事務員さんと食事をしたりしていた。事務員さんは愚痴っぽい人ではなかったが、社長のことではかなりストレスを溜めているようだった。
届け物などを届けに行こうとすると、社長の怒声が結構な頻度で聞こえてくる。怒声を聞きながら毎日仕事をするのはさぞ辛いだろうなと思っていた。
怒りは従業員だけに向けられるわけではない。出入りの業者も対応が悪いと、ものすごい剣幕で怒鳴られていた。知り合って間もない人には自分の権威を知らしめる為に、付き合いが長い人には恐怖で支配する為に怒ってみせる。
その恐怖で最大限の恩恵や譲歩を引き出せると考えていたと思う。
けれど実際には、みんな新しいことにチャレンジしようとはせず、目の前にある仕事を当たり障りない程度にするだけだった。何かをしても給料に反映されるわけではない。してもしなくても怒られるのなら何もしない方がいいと考えていたのだろう。業者もなるべく社長に関わらないように、そそくさと用事を済ませて帰っていく。
みんな自分が怒られないように我が身の保身だけを考えるから、殺伐として、誰かが怒られているときにそれに助け舟を出すこともあまりなかったようだ。
数日、悪くすると一日も持たないで辞めていく人も多かった。
「あれあの人は?」と事務員さんに聞くと、「もうとっくに辞めたよ」という答えが返ってくる。
怒声が響いていないときに事務所に入ると、しんと静まり返ったフロアに恐怖が蔓延していた。社長以外皆、覇気のない顔で、黙々と仕事をしている。
事務員さんが一番嫌だったのは、どこで怒りのスイッチが入るか分らないところだと言っていた。怒られても自分に非があるとか、怒りに整合性があることならまだ許せる。注意すればいいからだ。しかし昨日はそのやり方でよかったものが、今日はそれでは駄目なことが往々にしてあるようだった。他人のことで、関係のない人が怒られることも多かった。自分のことなら反論もできる。でも怒られているのは他人だからそれを回避する為に、社長に従わざるを得なくなる。
怒られるポイントが次々変わるから、こうすれば怒られないというルールは存在しない。
全ては社長の機嫌次第なのだ。
それはものすごいストレスだ。
怒り悪態をついているうちに、その行為自体が益々社長を興奮させ、血相は変わり、怒りは頂点へと達していく。
怒られた人のストレスは耐え難いものなので、それを他者に向かって放出する人もいた。怒られた管理職の人が下の人間に当り散らしている場面にもしばしば遭遇した。 怒りの連鎖だった。
そんな風に人を大切にしないから、せっかく覚えたことを生かす前に人は辞めていくし、会社の為に骨身を削って働こうとする人もいなくなっていく。
その会社がどうなったか、私は知らない。
そんなパワーハラスメントがいつまでも続けられるとも思わない。
怒りのエネルギーは向けられた対象者だけではなく、社長自身をも蝕んでいる。
(この社長について付け加えました。こちらも併せてどうぞ「人を支配するダブルバインドというパワハラ」)