恋愛依存症…過度に恋人に依存してしまう人

友人が共通の友人あるYの話題をふってきた。
「Y、また彼氏と別れて荒れてるらしいよ」
大きな瞳がくるくるとよく動くYの愛らしい顔が浮かんだ。もうしばらく会っていない。
可愛らしい人なので恋人はすぐできるのだが、つきあいが長く続かない。
Yは、色々な事情があって、実の両親ではない人に育てられるという複雑な生い立ちを持っている。
幸せでない幼少時代を過ごしたことは、本人から何度も聞かされていた。
それ自体は不幸なことで、可哀そうだと思う。
その反動なのか、不幸な子供時代の愛情を取り戻すかように、この人と見込んだ相手からは、ありったけの愛情を得ようとする。
けれど、渇いた砂地に水をまくように、愛情は留まることなく吸い込まれていく。
Yが求めるのは何にも揺らぐことのない、究極の愛だ。
彼の家庭環境や友人関係、過去の恋人を調べあげて、彼の行動や考え方をたえず監視する振る舞いは、Yの悲痛な叫びのように思える。
どんなに情報を積み重ねても、それが別れの免罪符にはならない。
何もしてもしなくても、別れるときは別れるし、別れないときは別れない。
それがYにはわからない。
私を見て。聞いて。どこにもいかないで。離れないで。いつでも私のことを考えていて。
常に恋人の気持ちが自分にあるか、確認していないと不安でたまらなくなる。
見捨てられる不安感がいつもYを脅かしている。
彼がYより仕事を優先することに不満を抱き、彼の過去の関係に嫉妬し、周囲の人間関係にも猜疑心を募らせる。
LINEやメールの返信が少しでも遅いと不安になって、彼には彼の生活があるということを考えられなくなり、夜中に泣いて電話をしたりして振り回していた。
我がままな振る舞いやわざと嫉妬を誘ったり、相手の心を試すような問題行動は、全て確認だ。
「こうすれば私のこと嫌うよね?」
「もう嫌いになったよね?」
「やっぱり離れていくんでしょう?」
どんなに愛情深い恋人でも保護者にはなれない。
付き合い初めの頃はお似合いに見えるのに、あまり長く付き合うことなく別れることが多かった。
相手の方が、監視され支配されるような関係に嫌気が差してしまうのではないかと思う。
そして相手が去っていくと、ああ、やっぱりと思うのだ。この人は私が求めていた人ではなかったと。
彼ほどあからさまではないけれど、友人に対しても同じような傾向があった。
してもらって当たり前のように思っている節がある。
終始自分の話ばかりして、何かを相談しようとしても、軽くスルーして自分の話にすり替えてしまう。
「私はずっと不幸せだったんだからこれくらいのこと当然でしょう」という思惑が透けて見える。
彼の自慢話も多い。それは彼の愛情は常にYにあることを自分に納得させる為の証明のようなものだと思う。
「大丈夫、彼はYのことが好きだよ」
そう言ってもYは納得しない。
今は好きでも、一秒、一分後には気持ちは変わるかもしれない。Yの苦悩は終わらない。
自分も以前そういう不安で不安でたまらない頃があって、毎日確かめて束縛して、でも過度に執着すれば却って関係を壊しかねないことに、やがて気づいた。
Yもいつか気づくと思っていたが、Yの不安は消えなかった。付き合う人が変わっても年齢を重ねても同じようなことを繰り返していた。
私も他人との距離の取り方がわからない悩みを抱えていて、何を言えばYを安心させられるかわからなかった。
寄りかかられすぎると私には荷が重すぎて、次第に距離を置くようになってしまった。
明るく誰より努力家で、屈託がなく面倒見がよいY。明るいのにどこか陰があって、ほっておけない感じも魅力的だった。
あなたのよいところは沢山あるのに。
彼と別れてもあなたの価値は少しも損なわれない。
誰かに愛されることだけが絶対の価値基準ではない。
そのことを伝える言葉を持たないまま、Yとの交流は途絶えたままだ。