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刻々と変化する世界に幻惑される萩尾望都の『バルバラ異界』

刻々と変化する世界に幻惑される萩尾望都の『バルバラ異界』

<2018.1.29>

萩尾望都が描くマンガが好きで、よく読んでいる。

この前『バルバラ異界』を読み返してみたので、少し感想を書いてみる。26回日本SF大賞受賞作品である。

西暦2052年。他人の夢に入り込むことができる“夢先案内人”の渡会時夫は、ある事件から7年間眠り続ける少女・十条青羽の夢をさぐる仕事を引き受けることになった。そして、その夢の中で青羽が幸せに暮らす島の名をキーワードに、思いがけない事実が次つぎと現れはじめ…!?

amazonより

一部、ネタバレがあるので、未読の人はご注意下さい。(『マージナル』と『銀の三角』のネタバレも含みます。)

 

夢がテーマになっているので現実感が希薄なのと、キャラクター達がときにコミカルだったりするせいで、あまり暗さを感じないが、カリバリズム、ポルターガイスト、ジェノサイド…と、結構残酷で難解である。

難解だが、独自の世界観に心地よく引きずり込まれるので、最後までページをめくる手が止まらなくなる。
過去・現在・未来が相互に干渉しあいながら、刻々と世界が変化していく様に、くらくらしてくる。世界観に幻惑されて、うっかりすると自分の立ち位置すら曖昧になる。

親子の愛の物語とも言えるし、喪失の物語でもある。

時夫は、愛する実の息子(タカ)を得るが、その替わり、息子だと思って愛情を注いでいた人物、キリヤを失う。
息子だと思っていたキリヤは一度死に、十条青羽の見る夢の世界、「バルバラ」に生を得る。キリヤと入れ違いに「バルバラ」に生きていたタカ(実の息子)がキリヤとして現実に蘇る。時夫は青羽の夢に入ることで、青羽の夢でもあり人類の未来でもある「バルバラ」に行くことができたが、青羽の死によって永遠にその道は失われてしまう。

もうキリヤに会うことはできない。時夫の喪失感が胸に迫る物語である。

読みながら、同じ萩尾望都作品の『マージナル』と『銀の三角』を思い出した。

『マージナル』では、念者のグリンジャ、アシジンは、二人が愛する少年キラを失うが、替わりにクローン体のキラを得る。『銀の三角』では、エロキュスは運命の結び目となっていた少年パントーを失うが、得られる人物はいない。

『銀の三角』がこの3作品の中で最も悲劇的な雰囲気が漂うのは、パントーの替わりがいないからだろう。
結び目だったパントーは、ほどけてその存在自体がなかったことになる。エロキュスの胸の中だけに存在する幻になる。

『バルバラ異界』のキリヤは、未来に確かに存在する。会えなくなっても、存在がなくなるわけではない。時夫とキリヤは、細い線で繋がっている。

特筆すべきはキャラクター達の魅力である。それぞれのキャタクターが、重層的に折り重なって、途方もなく広がる世界を更に複雑に、膨張させていく。
緻密なストーリーになればなるほどキャラクターはある意味、駒のようになってしまいがちだが、『バルバラ異界』にそれは当てはまらない。

このように、美しく切ない萩尾宇宙を堪能できることを幸せに思う。
読み終えたが、『バルバラ異界』の壮大な物語は、しばらく頭の中で上映されそうだ。

(こちらも併せてどうぞ「萩尾望都の描く、集団のなかのノケモノ『くろいひつじ』」)






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